建築物は、「完成したら終わり」ではない。人が使い続け、地域に根付き、時を重ねることで、価値がさらに育まれていく。そんな考え方を大切にしているのが、日本建設業連合会が主催する「BCS賞」だ。デザインの美しさだけでなく、建築主・設計者・施工者が協力して生み出した建築物を総合的に評価する、日本を代表する建築賞のひとつとして知られている。
そこで今回は、第67回(2026年)BCS賞の受賞作品のなかから、建築好きならぜひ知っておきたい建築物をピックアップ。受賞作品を通して、「これからの建築」に求められる価値を読み解いていく。

BCS賞とは?
「BCS」とは、賞を創設したBuilding Contractors Society(建設業協会)の頭文字に由来する名称だ。1960年に創設され、2011年からは日本建設業連合会へ引き継がれた現在も、その精神は受け継がれている。
BCS賞の最大の特徴は、建築主・設計者・施工者の三者を表彰することにある。建築物は、優れた設計だけでも、高い施工技術だけでも完成しない。建築主の構想、設計者の創造力、施工者の技術力がひとつになって初めて、長く愛される建築が生まれるという考え方が根底にある。
また、評価の対象となるのはデザインだけではない。建築の企画、計画・設計、施工品質、環境への配慮、さらには建物の運用・維持管理までを含めて総合的に審査される。こうした評価の根幹は創設以来変わらない一方で、社会の変化に合わせて評価の視点はアップデートされ続けている。
創設から60年の時点で、受賞作品は累計958作品にのぼる。その第1回受賞作品のひとつが、日本の復興と高度経済成長を象徴する「日本電波塔(東京タワー)」だった。以来、事務所ビルや学校、美術館、駅、ホテル、歴史的建造物など、多彩な建築物が受賞を重ね、その時代に求められた建築のあり方を映し出してきた。だからこそBCS賞の受賞作品をたどれば、日本の建築の歩みを知ることにもつながるのである。
※ 日建連表彰 2026 第67回 BCS賞 募集要項|一般社団法人 日本建設業連合会
https://www.nikkenren.com/kenchiku/bcs/doc/67youkou.pdf
BCS賞が大切にしていること
BCS賞の大きな特徴は、書類だけで受賞作品を決めないことだ。一次選考を通過した建築物については、選考委員が現地を訪問。建築主や設計者、施工者、さらには建物管理者などから話を聞きながら、建築が実際にどのように使われ、地域や社会にどのような価値を生み出しているのかを確認する。
また、応募できるのは、供用開始から1年以上が経過した建築物に限られる。完成したばかりの建築ではなく、人々に利用され、時間を重ねた建築を対象とすることで、設計や施工だけでは見えない価値まで評価しようとしている。
こうした審査方法には、「建てること」がゴールではなく、「建てた後も価値を育み続ける建築」を評価したいというBCS賞の考え方が表れている。
受賞作品から見えてくる、これからの建築
第67回BCS賞では、スポーツ施設や文化施設、オフィスビル、研究施設など、多彩な建築物が受賞した。用途や規模は異なるものの、そこに共通しているのは、「建てて終わり」ではなく、人や地域とともに価値を育んでいくという考え方だ。ここでは、その象徴ともいえる3つの建築物を紹介する。
1. 香川県立アリーナ(香川)

photo by PhotoAC
2025年に開館した「あなぶきアリーナ香川(香川県立アリーナ)」は、最大収容人数約1万人を誇る中四国最大級のアリーナだ。スポーツ大会はもちろん、コンサートや展示会、国際会議など幅広い用途に対応し、新たな交流拠点として期待されている。
設計を手がけたのは、世界的な建築ユニット・SANAA。瀬戸内海の島々を思わせる、ゆるやかに連なる大屋根は、高松港や海辺の風景に自然と調和し、新たなランドマークとして存在感を放っている。そのデザインは世界的にも高く評価され、2025年には建築・デザインの国際賞「ベルサイユ賞」で、「世界で最も美しいアリーナ」に選ばれた。
BCS賞で評価されたのは、美しいデザインだけではない。「誰もが気軽に訪れられる公園のようなアリーナ」というコンセプトのもと、スポーツやイベントの開催時だけでなく、日常的に人が集い、地域との交流が生まれる空間を実現している点が高く評価された。建物そのものだけでなく、完成後の使われ方まで見据えた建築のあり方を示す受賞作品といえる。
建築主:香川県
設計者:有限会社SANAA事務所
施工者:株式会社大林組、株式会社合田工務店、株式会社菅組
2. 水戸市民会館(茨城)

photo by PhotoAC
2023年に開館した「水戸市民会館」は、大ホールや展示室、会議室などを備えた複合文化施設だ。しかし、この建物が目指したのは、新たな文化施設をつくることだけではない。
水戸市民会館は、水戸芸術館、京成百貨店とともに「MitoriO(ミトリオ)」地区を構成する施設のひとつ。3施設をつなぐ「通り抜け空間」を設けることで、人の流れやにぎわいを創出し、中心市街地の活性化を目指している。BCS賞でも、多様な市民活動の場を生み出したことなどが高く評価された。
開館から約3年を経て、人が集い、文化や交流が生まれる場として地域に根付いたことも、今回の受賞を支えた大きな要因だ。建物単体ではなく、「まちのにぎわい」を育てる建築。まさに、「建てて終わりではない」というBCS賞の理念を体現した一棟だろう。
建築主:泉町1丁目北地区市街地再開発組合
設計者:株式会社伊東豊雄建築設計事務所、株式会社横須賀満夫建築設計事務所
施工者:株式会社竹中工務店、株木建設株式会社、株式会社鈴木良工務店、株式会社葵建設工業、株式会社関根工務店
3. TODA BUILDING(東京)
戸田建設が長年本拠を構えてきた東京・京橋で、本社建替えプロジェクトとして誕生した「TODA BUILDING」。2024年に開業した地上28階建ての超高層複合ビルで、上層階にはオフィス、低層階にはギャラリーやホール、飲食店などを備え、地域に開かれた空間を目指している。
BCS賞で高く評価されたのは、超高層ビルでありながら、敷地の半分以上をオープンスペースとして街に開放したことだ。長年にわたり本拠を置いてきた京橋への地域貢献を理念に掲げ、江戸時代から続く文化発信地としての歴史や創造性を未来へつなぐ、新たな都市空間を生み出している。
また、建築主・施工者を戸田建設が担い、設計にも主体的に関わったプロジェクトであることも特徴のひとつだ。本社ビルでありながら、企業のためだけでなく、街に新たな価値を生み出す建築を目指した取り組みは、「建てて終わりではない」というBCS賞の理念にも通じている。
建築主:戸田建設株式会社
設計者:戸田建設株式会社、株式会社プレイスメディア、トモルデザイン・メグロ株式会社、株式会社廣村デザイン事務所
施工者:戸田建設株式会社
多彩な受賞作品が示す、建築の新たな価値
今回紹介した3施設以外にも、第67回BCS賞では、スタジアムや研究施設、文化施設、オフィスビルなど、多彩な建築物が受賞している。用途や規模はさまざまだが、共通しているのは、建物単体の完成度だけでなく、人や地域とのつながり、そして完成後に生み出す価値まで含めて評価されていることだ。
建築物に求められる役割は、時代とともに変化している。人が集い、街に開かれ、長く使われ続けることで、その価値はさらに育まれていく。第67回BCS賞の受賞作品は、そんな「これからの建築」のあり方を示している。


