コラム

2025.12.02

女性の活躍で現場はこう変わる。広がる建設業の“新しいかたち”

近年、建設の現場で女性の姿を見かけることが少しずつ増えてきた。まだ決して“当たり前”というほどではないが、女性を受け入れるための環境整備や制度づくりに取り組む企業は着実に増えている。

その結果、「現場の雰囲気が柔らかくなった」「業務の進め方が改善された」「安全性が向上した」といった思わぬ変化も生まれつつある。本記事では、建設業で起きている“変化の兆し”をやさしく読み解き、女性の活躍によって広がる“新しい建設業のかたち”を紹介する。

1. なぜ今、建設業で女性の活躍が求められているのか?

建設現場で働く女性の姿が、少しずつ日常の風景になりつつある。その存在感は確実に広がっているが、これは偶然ではない。背景には、建設業界全体の「人手不足」と「高齢化」という課題がある。長年現場を支えてきたベテランの高齢化が進む一方で、若手の育成は十分とはいえない。このギャップを埋めるため、女性の活躍が強く求められている。

国土交通省も女性の定着を後押しする計画を打ち出し、企業も現場環境や制度の整備に取り組んでいる(※)。こうした流れが、女性が建設業で働きやすくなる土台を整えつつあるのだ。

※建設産業における女性活躍・定着促進に向けた実行計画 |国土交通省

https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/content/001885839.pdf

2. 数字から見るリアル:建設業で働く女性はどれくらい?

「現場で女性を見かけるようになった」と感じる人が増えている一方で、実際の割合はどうなのだろうか。

国土交通省の調査によると、建設業における技術者や技能者の女性比率はまだ1割以下にとどまるが、希望の兆しもある。2024年度の採用実績では、技術者の採用で女性が20%、技能者でも6%を占めている(※)。

事務系の女性比率は38%にのぼることから、職種によって差はあるものの、女性が業界に参画しやすい環境は少しずつ整いつつあることがわかる。

「建設現場に女性はどれくらいいるのか」と聞かれると、まだ少なめではある。しかし、確実に増えていることも事実だ。

※ 令和6年度建設産業における女性定着促進に関する実態等調査結果|国土交通省

https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/001843500.pdf

3. 現場で活躍する女性たち ── 企業の事例から見る変化

施工管理や設計、現場作業まで、建設業で働く女性の活躍のかたちは本当に多彩だ。ここでは、実際に現場で輝く女性たちのケースを見てみよう。

3-1. 多彩なフィールドで活躍する女性従業員|清水建設

清水建設では2009年にダイバーシティ推進室を設置し、女性活躍推進を含め、さまざまな施策の充実を進めてきた。現に、多彩なキャリアを歩む女性が、建設現場や管理部門で活躍している。

ある女性技術者は、4ヶ月間の現場責任者を任されるなかで、日々お客様とのコミュニケーションを取りながら、信頼を築いた。「いつか後輩を支えたい」という想いで、受けたサポートを将来に還元する強い意志を持っている。

仕事と家庭の両立も、清水建設では現実的なキャリアパスとして描かれている。入社後に結婚・出産をした女性は、育休・産休を取得し、家族の理解と会社のサポートを得ながら復職。現在も最前線の研究業務や現場測定を続けつつ、家族との調和も保っている。

清水建設では、単なる制度設計だけでなく、実際に現場で挑戦する女性のストーリーを大切にし、キャリアを自分らしく築く道を整えている。

※ シミズ・ウーマン|清水建設

https://www.shimz.co.jp/company/about/diversity/women/shimizu-women

3-2. 歴史的一歩「浦和駒場プロジェクト」|長谷工コーポレーション

長谷工では、マンションライフに関わるすべてのフィールドで女性社員(ハセジョ)が活躍している。なかでも、2016年にはじまった「浦和駒場プロジェクト」でその存在感を大きく示した。

このプロジェクトは、事業企画から施工、設計、内装、管理まで、すべての部門で女性を起用するという大胆な構想のもと進められた。現場では、女性所長のコミュニケーション力が光り、「パパママ朝礼免除制度」や、家族からの理解を深める「親子見学BBQ大会の開催」などの施策を積極的に取り入れた。所員や職方との意見交換や相互理解を日々重ね、現場全体の結束力を高めていった。

衝突しては対話し、共に考え、理解し、サポートし合う。そんな日常の積み重ねによって、「女性所員×男性職方」という構図は次第に「プロ×プロ」の関係へと変わっていった。この変化こそが、プロジェクトの確かな進化を示す証である。

※ フレー!フレー!ハセジョ|長谷工

https://www.haseko.co.jp/hasejo

3-3. 地方でも広がる女性活躍の現場|ケースブック・事例集より

地方の建設現場でも、女性が力強く活躍している事例は増えている。国土交通省や建設産業団体などが支援する地域ネットワークでは、女性技術者や技能者のキャリア形成を後押しする取り組みが各地で進められている。

ある建設会社では、ヒューマンリソースセンターを開設。子育て経験のある女性がセンターの要となり、現場所長や女性技術者と日常的に面談の機会を設けることで、関係性の構築をサポートしている。女性技術者の定着率の向上にもつながっている。

また、地域の建設女性ネットワークでは、地方の現場で働く女性技術者・技能者を対象に、交流会や研修会を開催。普段は異なる現場で働く女性たちが集まり、情報交換や仕事の工夫を学び合う場として活用されている。

※ 建設業女性の活躍応援ケースブック|国土交通省

https://www.kensetsu-kikin.jp/woman/wp-content/themes/woman_network/pdf/casebook_2015.pdf

※ ⼥性活躍⽀援に取り組む 地域ネットワーク事例集|建設産業人材確保・育成推進協議会

https://genba-go.jp/content_category/1197

4. 女性がいる現場が“強くなる”理由とは?

近年、建設現場でも女性の活躍が広がり、多様な視点によってチーム力を高める場面が増えている。例えば、導線の見直しや資材配置の工夫など、日々の作業をよりスムーズにする気づきが共有されることで、現場全体の効率や安全意識が向上するケースも見られる。

また、コミュニケーションのスタイルが多様になることで、相談や情報共有がしやすい雰囲気が生まれ、チームとしての一体感が育ちやすくなる。結果として、トラブルの未然防止や、働きやすい現場づくりにつながる可能性があるのだ。

もちろん、「女性がいるから必ずこうなる」と断言できるわけではない。しかし、性別にとらわれず多様な人材が集まる現場では、新しい視点や改善の種が生まれやすい。そうした小さな積み重ねが、結果的に“強い現場”をつくっていく。

5. まだある課題。しかし“乗り越える方法”は増えている

建設業で女性が活躍する場面が広がりつつある一方で、すべてが順調に進んでいるわけではない。現場によっては、更衣室やトイレといった基本的な設備が十分でなかったり、体力負荷や長時間勤務との両立に悩んだりするケースもある。

こうした環境要因が原因で、現場を離れる女性がいるのも現実だ。また、管理職への登用は依然として少なく、キャリア形成が見通しづらいという声も聞かれる。

しかし、ここ数年で「壁を越えるための選択肢」は確実に増えてきている。業界団体や企業は、女性専用の更衣室・休憩室の整備、働き方の柔軟化、キャリア相談やメンター制度の導入など、環境改善に向けた取り組みを積極的に進めている。現場ごとの課題を洗い出すチェックリストの導入や、女性技術者同士の意見交換会など、現実的な改善策を共有する動きも広がりつつある。

課題は依然として存在する。それでも、一歩ずつではあるものの、かつてより壁は低くなり、乗り越えるための選択肢は確実に増えてきている。

6. 女性の活躍で広がる建設業の未来

長く“男性中心”といわれてきた建設業。しかしその風景は、近年確実に変わりつつある。女性が現場に増えることは、単なる「人手の補充」ではない。多様な視点が加わることで、作業の進め方や安全確保の方法に新しい工夫が生まれ、チームの連携力も自然と強まっていく。

とくに、内装や仕上げ、左官といった“精度”が求められる工程では、細部の収まりや質感の違いに気づく力が評価されることもあり、こうした場面で女性技術者が活躍している例もある。日々の作業導線の見直しや資材配置の工夫など、小さな改善提案が現場の効率や安全意識を高めるきっかけになることもめずらしくない。

こうした変化は、働きやすさにとどまらず、現場の質そのものに影響する。結果として、誰もが力を発揮しやすい環境づくりや、業界全体の持続可能性を高める土台にもなっていく。

もちろん、制度整備はまだ途上。しかし、企業の取り組みやネットワークの支援、そして実際に活躍する女性たちの姿は、すでに確かな変化が進んでいることを示している。

性別にとらわれず、誰もが安心して長く働ける建設業へ。その実現にはまだ道半ばの部分もあるが、確かな変化が少しずつ積み重なり、未来への兆しは確かに見え始めている。

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