
数年前、建設業界で一気に注目を集めた「パワーアシストスーツ」。2021年頃にはメディアや展示会で取り上げられる機会も増え、「現場の未来を変える装備」として記憶している人も多いだろう。
あれから数年。パワーアシストスーツは今、“実際に使われる段階”へと進んでいる。すでに導入している現場もあれば、検討を重ねながら限定的に活用しているケースもあるだろう。確実に「現場の選択肢のひとつ」として定着しつつあるのが現状だ。
本記事では、かつてSFのように語られたこの技術が、現在、建設現場でどのような位置づけにあるのかを整理していく。
1. 昔はSFだった「人を補助するスーツ」
パワーアシストスーツの原点は、意外にも工業現場より先に、SFの世界にあったと言われている。
“人の力を何倍にも増幅する装置”や“重労働を肩代わりする外骨格”といった設定は、長く「未来の象徴」として描かれてきたが、当時は技術面やコスト面の制約も大きく、現実の現場で使えるものではなかった。
転機となったのは、センサー技術やモーター、軽量素材の進化だ。人の動きを検知し、それに合わせて補助力を加える仕組みが実用レベルに達したことで、“夢の装置”が現場で使える道具へと変わっていった。
2. 建設業でパワーアシストスーツが注目されるようになった背景
建設業でパワーアシストスーツが注目されるようになった背景には、現場の切実な人材構造の変化がある。
アシストスーツの開発背景を見ていくと、「若手がなかなか入ってこない」「現場の担い手が高齢化している」といった声が、業界内で繰り返し聞かれるようになってきたことがわかる。(※)
こうした相談をきっかけに、ゼネコンとメーカーが共同でアシストスーツの開発を進めたケースも少なくない。単に作業を“楽にする道具”というよりも、体への負担を減らし、年齢を重ねても現場で働き続けられる環境をつくることが目的だった。
背景にあるのは、人手不足のなかで「少しでも長く働いてもらいたい」「現場の“労働寿命”を延ばしたい」という企業側の現実的な課題だ。パワーアシストスーツは、そうした課題へのひとつの答えとして、建設現場に入り始めている。
※人気急上昇中の「アシストスーツ」 開発が進む背景に業界の垣根を超えた“連携”が|TBS NEWS
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/438328
3. 現場では、どんなふうに使われている?
現在、建設現場で使われているパワーアシストスーツの多くは、「腰の曲げ伸ばし」「重量物の持ち上げ」「中腰姿勢の維持」といった動作を補助するタイプだ。
鉄筋作業や資材運搬、型枠作業など、腰への負担が大きい工程で使われるケースが多い。とくに「完全に力を任せる」のではなく、人の動きを邪魔しない範囲で補助する設計が主流になっている。
実際の現場では、「劇的に楽になる」というより、「夕方の疲れ方が違う」「翌日の腰の重さが減った」といった、じわじわ効く変化を感じる声が多い。
4. ブームを越えて、実装フェーズへ
数年前、パワーアシストスーツは話題先行の印象もあった。しかし現在は、実証実験の段階を越え、本格的な実装フェーズに入っている。
国土交通省が建設現場の省力化・安全対策を後押ししていることもあり、大手ゼネコンを中心に導入事例が蓄積されてきた。(※)また、大学発ベンチャーや国内メーカーによる開発も進み、“高価すぎる特殊装備”ではなくなりつつある。
重要なのは、「誰のために使うのか」「どの作業で効果が出るのか」を見極めたうえで、現場に合った形で導入されていることだ。
※パワーアシストスーツ現場検証事例集|国土交通省総合政策局 公共事業企画調整課
https://www.mlit.go.jp/common/001517638.pdf
5. すべての現場に万能ではない
もちろん、パワーアシストスーツは魔法の道具ではない。場合によっては、以下のようなケースもあるだろう。
・着脱に少し時間がかかる
・狭所作業では使いづらい
・慣れるまで違和感がある
また、すべての作業に適しているわけではなく、「向いている工程」と「そうでない工程」がはっきり分かれる。だからこそ、現場では、試しながら使う姿勢が大切になっている。
6. これからの建設業と、パワーアシストスーツ
パワーアシストスーツは、人を置き換えるための技術ではない。人が長く、無理なく働くための選択肢のひとつである。高齢化が進むなかで、ベテランの経験を現場に残すための支えとなり、若手にとっても身体を壊さずに働ける環境をつくる道具になり得る。
また、現在は国や自治体によって、省力化・安全対策を目的とした導入支援や補助金制度が用意されているケースもある。条件や内容は地域・年度によって異なるが、「導入コストがネック」という現場にとって、検討材料のひとつになるだろう。(※)
昔はSFだった技術が、現場へ溶け込み始めている。パワーアシストスーツは、これからの建設業を支える“当たり前の装備”になっていくのかもしれない。


