コラム

2025.11.04

定年後も建設業で働くには?ベテランが選ぶ“新しい働き方”

何十年も建設業一筋でやってきた人にとって、現場は“自分の居場所”のようなものだろう。体を動かすことにも慣れており、まだまだ若い者には負けない――そう思っていても、ふと不安になることは少なくない。

定年を迎えた後も働きたいと思う一方で、体力の衰えや働き方の変化、待遇の不安から、踏み出せずにいるベテランも多い。しかし、近年は再雇用や派遣、業務委託、パートといった多様な選択肢が広がっており、経験を活かしながら無理のないペースで現場に関わることも可能だ。

本記事では、定年後も建設業で活躍するための働き方や、長く働き続けるためのポイントを紹介する。これからのキャリアを考える際のヒントとして、ぜひ参考にしてほしい。

1. 建設業界の高齢化と、「定年後を考える人」が増えている背景

建設業界では今、高齢化が大きな課題となっている。

国土交通省の資料によると、建設業に従事する就業者全体のうち55歳以上は約36%にのぼり(※)、現場で働く技能者に限ると、60歳以上が約25%を占めている(※)。つまり、10人に3〜4人がベテラン世代。現場を支えてきた経験豊富な人材が多い一方で、29歳以下の若手は1割程度にとどまっており、次世代への継承が急務となっている。

それでも、長年の経験を持つベテラン人材の力は現場に欠かせない。「定年を迎えても、まだ現場で力を発揮したい」「体力や環境に合わせて、働き方を変えながら仕事を続けたい」と考える人も少なくない。

しかし、「どのくらい働けるのか」「定年後は待遇が変わるのか」といった不安の声もある。定年後のキャリアをどう描くかは、業界全体にとっても重要なテーマだ。

今は“定年=引退”とは限らない時代。経験や技術を活かしながら、より柔軟な働き方を選ぶベテランも増えている。

※改正建設業法について~改正建設業法による価格転嫁・ICT活用・技術者専任合理化を中心に~ P2|国土交通省不動産・建設経済局 建設業課令和6年 12月

https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/content/001855436.pdf?utm_source=chatgpt.com

※建設業を巡る現状と課題 P4|国土交通省

https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001610913.pdf?utm_source=chatgpt.com

2. 定年後の働き方パターン 経験を活かす多様な選択肢

定年後も建設業で働きたい――そう考えるベテランにとって、現場の仕事は体力面や環境面でハードルもある。しかし、最近は働き方の幅が広がり、体力や生活スタイルに合わせて選べる道が増えている。ここでは、代表的な働き方のパターンを見ていこう。

2-1. 「もう少し現場で」 再雇用・嘱託で働く

定年後、これまで勤めた会社で再雇用されるケースは多い。

例えば、大林組では、シニア人材を若手育成や技術継承において重要な人材と位置づけており、制度希望者の再雇用率は100%としている。アフターシニアとして、65歳以上で活躍している職員が多いのも特徴だ。(※)

また、大成建設でも70歳までの活躍を見越した現場の“軽労化”やICT活用などが進められており、無理のない形で経験を活かし続けられる環境が整いつつある。(※)

再雇用や嘱託契約のメリットは、給与や福利厚生をある程度維持しつつ、これまで培った経験やスキルを活かして現場監督や補助業務に携われる点。一方で、現場での体力負担や最新技術の習得が必要な場合もあるため、事前に仕事内容や勤務条件を確認することが大切だ。

※ダイバーシティ&インクルージョンの具体的な取り組み|大林組

https://www.obayashi.co.jp/diversity_inclusion/torikumi.html

※建設業界の現場作業での「軽労化®」に向けた共働研究を開始|大成建設

https://www.taisei.co.jp/about_us/wn/2021/210421_8147.html

2-2. 「自分のペースで現場に」 派遣・パート・アルバイトで関わる

体力的にフルタイム勤務が難しい場合でも、派遣やパート、アルバイトとして現場に関わる方法がある。勤務日数や時間帯を柔軟に調整でき、無理のないペースで経験を活かせるのが魅力だ。

建設業界の派遣では、勤務日数を自分の希望に合わせることも可能。希望すれば週5日フルタイムで働き、しっかり稼ぐこともできる。体力や生活スタイルに合わせて、給与や待遇の面でも自分に合う条件で働けるのがメリットだ。

派遣として現場に関わる場合、経験やスキルを活かして現場監督のサポートや補助業務、軽作業などに携わることができる。また、施工管理業務やCADオペレーター、現場事務所での事務作業など、専門性を活かせる分野も多い。社会保険や福利厚生が整っている場合もあり、定年後でも安定して働ける。

2-3. 「経験を活かして独立も」 業務委託・フリーランスで働く

建設業界では、これまでの現場経験や技術を活かして、業務委託やフリーランスとして働く選択肢もある。補助業務や技術コンサルティングなど、自分の得意分野や希望に合わせて働けるため、体力的な負担を抑えながらキャリアを続けやすい。

収入も一定程度確保でき、長年培った技術や知識を必要とする現場で、ベテランとしての価値を発揮しやすい働き方だ。契約内容や勤務条件は事前に確認し、安全面や報酬面に不安がないように準備しておくことが大切である。

2-4. 「現場から離れて支える」 社内の非現場職で関わる 

定年後は、現場を離れて社内でのサポート業務に携わる選択肢もある。安全管理や品質管理、教育・研修のサポートなど、現場で培った経験や知識を活かしつつ、体力的な負担を抑えて働けるのが魅力だ。

社内職は勤務時間や業務内容が比較的安定しており、健康面や生活リズムを考慮しながら働き続けやすい。また、若手や中堅への技術継承や教育を通じて、間接的に現場を支えるやりがいも感じられるだろう。

2-5. 「もう一度、自分らしく挑戦」 完全引退・ボランティア活動

定年後は、現役としての働き方から少し距離を置き、自分らしい活動に挑戦する人もいる。地域の建設関連ボランティアや、子ども・若者向けのものづくり教室、NPO団体の支援など、これまでの経験を活かして社会貢献するケースもある。

働くことのペースや量を自分で決められるため、体力やライフスタイルに合わせて無理なく関わることができる。給与が発生しない場合もあるが、「経験や技術を次世代に伝える」「地域や社会に貢献する」といった新しいやりがいを得られる点が魅力だ。

3. 定年後も建設業で仕事を“続ける派”の声

定年後も建設業で働き続ける人にとっての大きなメリットは、やはり経験やスキルを活かせることだ。長年の現場経験や技術はベテランならではで、若手にはない判断力や安心感を提供できる。再雇用や派遣などで働く場合は、給与や社会保険が維持されやすく、経済面での安定も得やすい。

「現場に出て、若手をサポートするのがやっぱり楽しい」「体力は落ちたけど、自分の経験が役立つ場面が多いので、やりがいを感じる」などの声も少なくない。

一方で、注意すべき点もある。体力や健康の変化により、従来通りのフルタイム勤務や肉体労働が厳しくなることがある。また、ICTや最新技術の習得が必要になる業務では、学習コストがかかる場合も。働き方を選ぶ際には、体力・技術・生活環境のバランスを考え、無理のない範囲で関わることが大切だ。

4. 定年後に建設業を“やめる派”“離れる派”の声

定年後に現場から離れることを選ぶ人も少なくない。理由としては、体力の低下や健康上の不安が多く、これまで通りの肉体労働や長時間勤務が負担に感じられるケースがある。また、再雇用で働く場合も、給与や待遇が現役時代と比べて変化することに不安を覚える人も一定数いる。

「もう体力的にきつくて、無理に続けるより退くほうが安心」「現場のスピードについていく自信がなくなった」といった声も見られる。こうした決断は、生活リズムを優先した現実的な判断でもある。

定年後の離職は、完全な引退だけでなく、趣味や地域活動、ボランティアなど新しい挑戦につながるケースも多い。建設業で培った経験を活かしつつ、自分のライフスタイルに合った活動にシフトできる可能性もある。

5. 建設業で定年後の働き方を選ぶためのチェックリスト

定年後の働き方を考えるとき、頭の中だけで悩むより、ポイントを整理しておくとイメージしやすい。ここでは、建設業で定年後も現場や関連業務に関わる際のチェックポイントをまとめた。

●体力・健康面は問題ないか?

フルタイムで現場に出るのはまだ大丈夫?

週3〜4程度の勤務が望ましい?

体力・健康面において無理なく続けられるペースを考えよう。

●働き方の希望は明確か?

再雇用で安定を重視したい?

派遣やパートで柔軟に働きたい?

業務委託・フリーランスで独立感を持ちたい?

自分の性格やライフスタイルに合う働き方をイメージしよう。

●収入や待遇の目安は把握できているか?

給与や福利厚生は、どの程度維持される?

体力を抑えつつ、生活費や老後資金に必要な収入は確保できる?

金銭面においても無理のない計画を考えよう。

●スキル・知識はどう活かせるか?

現場経験や資格、技術力はどのように活かせる?

ICTや最新施工技術への対応は必要?

自分の強みを活かせる環境をイメージしよう。

●生活環境や家庭とのバランスは取れているか?

通勤距離や勤務時間は、無理なくこなせそう?

家族との時間やプライベートの充実は確保できる?

体力だけでなく、生活全体のバランスを意識しよう。

6. 建設業では「続け方」も「離れ方」も選べる時代

建設業の定年後は、体力や生活に合わせて、無理なく働く選択肢が広がっている。再雇用や派遣、アルバイト・パート、業務委託など、これまでの経験や技術を活かしながら、自分のペースで現場に関わることができる。

高齢化が進み、人手不足も深刻な建設業だからこそ、シニア世代の力は依然として必要で、まさに“引く手あまた”な状態。他業界と比べても「年齢不問」や「シニア歓迎」の求人が多いのが現状だ。

定年退職はもう少し先でも、こうした選択肢を知っておくだけで、将来の働き方を具体的にイメージできる。建設業で培った経験と技術は、定年後もあなたの力になるだろう。無理のないペースで、これからのキャリアを描いていこう。

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