コラム

2026.08.03

建設現場は“暑さと戦う”から“暑さを避ける”へ。猛暑時代に求められる、新しい働き方とは

「暑いけれど、頑張ろう」。そんな気合いや根性だけでは、もう乗り切れない。毎年のように危険な暑さが続くなか、建設業界では働き方そのものを見直す動きが始まっている。その大きな一歩となるのが、国土交通省が2025年12月に策定した「建設工事における猛暑対策サポートパッケージ」だ。猛暑時代の建設現場は、いま大きな転換点を迎えている。

1.    猛暑は”個人の問題”ではなくなった

建設業にとって、夏場の暑さは決してめずらしいものではない。これまでも、水分・塩分補給や空調服の着用、こまめな休憩など、一人ひとりが熱中症対策を徹底しながら、安全な作業に努めてきた。

しかし近年は、「夏だから暑い」というレベルを超え、危険な暑さが毎年のように続くようになった。全国的に猛暑日が増加し、熱中症警戒アラートが頻繁に発表されるなど、建設現場を取り巻く環境は大きく変化している。

もちろん、現場での熱中症対策は今後も欠かせない。しかし、こうした個人の努力だけでは、安全を守りきれない場面も増えてきたのが現実だ。

そのため近年では、熱中症は「個人が気を付けるもの」ではなく、「職場全体で防ぐべきリスク」として捉えられるようになっている。2025年6月には、労働安全衛生規則の改正により、一定の条件下で作業を行う事業者に対し、熱中症のおそれがある労働者を早期に発見・報告するための体制整備や、症状悪化を防ぐための手順作成・周知などが義務づけられた。

猛暑そのものを止めることはできない。しかし、猛暑のなかでどう働くかは変えられる。いま建設業界では、作業員一人ひとりの頑張りに頼るのではなく、工期や施工計画、作業時間なども含めて、現場全体で暑さを避ける仕組みづくりへと、大きく舵が切られようとしている。

2.    国が示した「猛暑を前提とした働き方」

こうした流れを受け、国土交通省が2025年12月に策定したのが、「建設工事における猛暑対策サポートパッケージ」だ。建設現場は、工事の内容や地域によって状況が大きく異なる。そのため、建設業団体との意見交換を踏まえ、一律のルールを押し付けるのではなく、それぞれの現場が状況に応じて取り組めるよう配慮されている。

目指しているのは、「猛暑のなかでも働く方法」を考えるのではなく、「猛暑を前提に、どう現場を運営するか」という発想への転換だ。そのため、施工時期や作業時間の見直し、ICT施工など最新技術の活用、猛暑対策に必要な経費の確保など、現場全体で安全に働ける環境づくりを支援する内容となっている。

具体的には、次の4つを柱としている。

・猛暑期間・時間の作業回避

・効率的な施工・作業環境の改善

・猛暑対策に必要な経費等の確保

・地方公共団体・民間発注者等への周知・要請、好事例の横展開

だからこそ、全国すべての現場に同じ方法を当てはめるのではなく、それぞれの現場に適した”猛暑との向き合い方”を考えていくことが重要になる。発注者や元請企業も含め、工期や施工方法、コストの考え方まで見直しながら、現場全体で安全な働き方を実現していくことが、このパッケージが目指す方向性といえる。

※ 建設工事における猛暑対策サポートパッケージ【概要版】|国土交通省https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001974369.pdf

3.     建設現場では何が変わる?

では、このサポートパッケージによって、建設現場は具体的にどのように変わっていくのだろうか。大きなポイントは、「猛暑のなかで頑張る」から、「猛暑を避けられるよう現場をつくる」へと発想が変わること。その変化を、4つのポイントで見ていこう。

「暑い日に工事をしない」という選択肢

これまでは、決められた工期のなかで、猛暑でも工事を進めるケースが少なくなかった。

しかし今後は、猛暑日(WBGT値)を考慮して工期を設定したり、準備工や工場製作を先に進めたりすることで、できるだけ危険な暑さの時期を避けて施工する考え方が広がっていく。暑さに合わせて工程を組み替えることも、これからの現場運営では重要な選択肢のひとつになる。

「働く時間」を変える

気温が高くなる日中を避け、早朝や夕方、夜間へ作業時間を変更するなど、現場の状況に応じて柔軟に働く時間を調整しやすくなる。

さらに、1年単位の変形労働時間制の活用も視野に入れ、夏場の負担を年間を通じて調整するなど、「決まった時間に働く」ことにとらわれない働き方も広がろうとしている。

人ではなく、技術が暑さをカバーする

ICT施工や建設DXの活用により、測量や施工管理の効率化、自動化が進んでいる。

また、バイタルチェック機器などを活用して体調の変化を早期に把握したり、作業環境を改善する設備を導入したりと、人の経験や我慢だけに頼らない現場づくりも進められている。技術を活用して、人が危険な暑さのなかで作業する時間そのものを減らしていく考え方だ。

熱中症対策を「企業任せ」にしない

熱中症対策を進めるには、空調設備や休憩施設の整備、機器の導入など、一定の費用が必要になる。

そのため国は、必要な対策費を適切に計上できるよう制度を見直し、企業だけに負担を任せない仕組みづくりも進めている。安全対策を「やりたいけれど予算がない」で終わらせないことも、このパッケージの重要な考え方のひとつだ。

4.     「暑さと戦う」から「暑さを避ける」へ

建設業では長年、「夏は暑くて当たり前」という考え方が根強くあった。だからこそ、水分補給や空調服など、一人ひとりが暑さに耐えるための対策が重視されてきた。

もちろん、こうした対策はこれからも欠かせない。しかし、猛暑が毎年のように続く時代では、それだけでは限界がある。今求められているのは、「暑さに耐える」ことではなく、危険な暑さをできるだけ避けられるよう、現場の仕組みそのものを変えていくことだ。

その変化は、働く人の命や健康を守るだけではない。働きやすい環境が整えば、若い世代や未経験者にも建設業を選んでもらいやすくなり、人材確保や定着にもつながる。さらに、無理のない工程や施工計画は、安全性や品質、生産性の向上にもつながっていくだろう。

猛暑は、これからも続くと考えられている。だからこそ、「どう暑さに耐えるか」ではなく、「どうすれば暑さを避けて働けるか」という発想への転換が欠かせない。建設現場はいま、「暑さと戦う」時代から、「暑さを避ける」時代へ。猛暑時代の建設業には、「頑張る人」を増やすのではなく、「無理なく働ける現場」を増やすことが求められている。

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